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第205話 不確定概念と租税法律主義(前回の続き)

2022年07月19日 所長の眼

今回は大変お堅いテーマで恐縮です。前回のテーマ「行き過ぎた?相続税対策」では、裁判所がある納税者の相続税節税対策を「著しく不適当」と判決したという話題でした。その「著しい」という概念は不確定といいますか、あいまいで数値化しにくいので、記事の帰結として「経験」という判断要素を持出し纏めてしまいました。いくらなんでも「経験」の一言で片づけるのはいかがなものかと私自身心の片隅で思っております。そこで、この不確定概念について、私なりにまじめに考察しますので、お付き合いいただければ幸いです。

税法という法律に用いられる「著しく」、「相当の理由」、「不当に」、「不相当に」とかいう言葉は、「不確定概念」といわれています。国税通則法に規定される「正当な理由」という言葉も同じく明確に概念を規定しているとは言い難く、これも同様に不確定概念です。この不確定概念については、租税法律主義との関係においてその存在は肯定されるべきか否かという議論が実はあるんです。

租税法律主義について、金子宏氏は著書「租税法」のなかで「租税は、公的欲求(財産需要)の充足のために、国民の富の一部を国家の手に移すものであるから、その、賦課・徴収は必ず法律の根拠に基づいて行われなければならない。換言すれば、法律の根拠に基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の納付を要求されることはない。」と租税法律主義を説明され、さらにその機能として「国民の経済生活に法的安定性と予測可能性とを与えることにある」とされています。もっともな話です。国民の経済的行為等により発生した所得についてどのような法的根拠に基づきどれほどの租税納付の義務を負うこととなるのか、あらかじめ法律として明確にされていなければならないとご理解ください。

一般的に租税法律主義の内容として「課税要件法定主義」「課税要件明確主義」その他の原則が掲げられるようですが、特に「課税要件明確主義」は、法律、政令又は省令の定めによって租税を課す場合においては、その要件をそれら法律等において明確に規定されなければならないという考え方です。「著しい」などのような言葉の内容が不明確で、意味不明である場合には、課税要件明確主義に反してしまい、ひいては租税法律主義を規定する憲法に違反するということになってしまいます。やっかいな問題ですね。

一方で実務的には全てが数値化されるようにすっきり規定できれば別ですが、必ずしもそうならない訳で、あいまいな部分である不確定概念というものは申告納税制度の信用維持のためにも敢て受け入れざるを得ないというのが現実的ではないでしょうか。そして個々の事由に係わる不確定概念の判断に関しては慎重を期し対応しなければならないということだと考えます。故に、納税者を代理する税理士である私としてはその判断要素の一つに「経験」をもちだしたわけです。

ご笑覧ありがとうございました。