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第204話 行き過ぎた?相続税対策

2022年06月19日 所長の眼

今年の4月に注目されていた相続税対策に係わる最高裁の判決がありました。事の経緯は当時90歳の男性が金融機関に相続税対策の相談をし、平成21年にその金融機関から借入を行い首都圏の賃貸物件を購入したことから始まります。その後平成24年にその男性は94歳で亡くなりますが、借入による物件購入の節税効果で物件購入前の本来の課税価格6億円超の財産を含む相続税負担は0(ゼロ)であったというものです。そのうえ相続人は相続後9ケ月で神奈川の物件を売却し現金化しています。

読者の方も賃貸物件を借入で取得するとその物件の相続税評価額と借入金額との差額により相続税の圧縮効果があるという話を耳にしたことはありませんか。相続税法では相続で取得した財産の評価は相続時の時価により、債務は相続時の現況による旨規定していますので、賃貸物件の評価方法などの影響によりその評価額は購入価額よりも大幅に低いケースはよくあることです。今回のケースでは借金で不動産を購入した場合にはプラスの財産(不動産)よりもマイナスの財産(借金)の方が過大となり、マイナスの超過分は被相続人が本来有していた財産の評価額をも相殺させ相続税を納めずに済んだというものです。裁判所が「著しく軽減」と断罪しましたが、そもそも相続財産の評価は時価とされていて、その価額は「評価通達」の定めによることになっており、その定めに従い申告しているのが今回のケース。他方「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」とも定めており、裁判所の結論は後者を採用したということになります。新聞各社はこれを「伝家の宝刀」と表現したようですが・・・。

税制には「著しい」かどうかが分かれ目になる場合があり、「著しい」という不確定概念はその判断基準が数値化しにくいが故に頭を悩ませるのは確かです。税理士として常日頃こうした判断が求められるわけではありませんが、必要があれば根拠をもって果敢に決断することもありますし、逆に慎重な対応をすることもあります。「著しい」か否かは数値化できない以上、税務上の経験で判断せざるを得ないところです。その経験を持たない者からのアドバイスは要注意です。