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第96話 外交

2022年04月30日 バンコク便り

第二次世界大戦以前からこの国(タイ)の外交はあくまで敵を作らない、悪く言えば八方美人外交である。しかしそれが世界秩序再編とも云える時代を乗り越え、独立国としての地位を保ったのであるから、決して批判できるものでは無い。

そもそもその秩序再編自体、キリスト教理をベースとした規範による欧米の価値観で定めたものであって、たまたま国力(経済力と軍事力)を備えていた国々により布かれた体制を、今も矛盾を抱えながら維持しているということは確かだが、それが正しいものかどうかは別の話だ。敵が多くて不安だと感じる故に、自らが確立した制度に(それを法と言っても良いが)主権の及ばないはずの他国まで従わせなければ気が済まないこと自体、一種の病弊では無いのか。自らの主権が及ばない隣国や他国を敵と見做すのはお互い様であって、そこはそれぞれの主権国家が拠って立つ価値観により生き、互いの利害関係については技術的に是々非々で向かい合えば済むことでは無いかと思う。

ここへ来て一気に噴出している国家間の軋轢も、すべて前提とされている世界秩序と云われているものが内包している矛盾であるという気がする。もちろん軍隊が隣国へ侵攻し罪の無い人々を虐殺することは、毛先の程も弁護する余地がないし徹底批判するのが100%正しい。しかし他国から押し付けられた秩序観を全て大前提とし、報道も政権の側も無反省に唯々諾々と従うのは、世論を覚醒させず国家を小児病に罹患させる道へと向かわせている。具体的には、同様の暴力行為を行使していてもその当事者の価値観・制度に支配されていると、結果的に報道も無批判になる、逆に敵対していると見做される国家が暴力を振るえばとにかく無条件に徹底批判され疎外される。この双方あるいは第三者の視点を多元的に併せ持たなければ、正常な理解はできないだろうということだ。

おや、タイの外交について述べ始めたはずがいつの間にか別の国を批判している。つまり欧米の優れた部分は大いに見習うべきだが、彼の国々から押し付けられた秩序観のままに報道や外交政策を選択する位なら、タイ国政府の様に八方美人で通し独自の立場を貫く方が、国民を誤った方向に誘導していないという面に於いては巧者と言えるのではないだろうか。その様な外交スタンスを維持し「最も優れた官僚たち」と評価された時代が確かにあったのだ。