2022年03月31日
今回は戦後の日本に導入されわずか3年で廃止されたという「富裕税」についての話題です。導入されたのは昭和25年といいますから、少なくとも私の周りのご年配の方々にお聞きしてもご存知の方はいらっしゃらなかったほどレアな話題であることを予めお断りしておきます。
さて、「富裕税」の中身は、毎年12月31日に個人が所有する財産の全てに対してその時価が500万円を超えた場合にはその超えた金額に対して0.5%~3%の累進税率で課税するというものでした。ちなみに昭和26年の国家公務員初任給は5,500円(大卒)という時代の話です。財産の全てということですから預貯金や不動産のほかにも有価証券、無形の権利なども含まれており、その申告と納税は翌年の2月末までとなっていたようです。想像するしかありませんが戦後の窮乏を考えると当時の所得税などの税金を納めるということに対する国民の意識は二の次三の次であったろうと思います。戦後の混乱期ゆえに財政不足を補うためにこの制度を導入し矛先をいわゆる少数の富裕な人々に向けねばならなかった事情がかいま見えます。
ちなみに同税の導入初年度の申告ベスト3も記録に残っていますので、その課税価格をご紹介します。
創設当時は臨時的ではなく毎年毎年課税を行う恒久的な制度を目指したようですが、結果的にはわずか3年で廃止されるという運命をたどります。
この制度が短命で終わることになった一因は財産の確実な補足が困難であったからと言われています。不動産などはその把握は容易であったものの、現金はもとより無記名債券などについては補足しきれない問題を抱えており、結果的に容易に捉えやすい財産に偏って課税されるきらいがあったということです。また、財産の存在そのものに課税するという性質上その財産の収益性が考慮されずに税金を負担する力のない無収益の財産に対しても課税されるという欠陥も指摘されました。こうした問題を抱えつつ長期的に定着させるというのは無理があったのでしょう。
さて、「富裕税」は日本では過去のことですが、今現在、少数ながらもフランス、ノルウェー、スイスなどでは導入されていますし、日本でもマイナンバーの活用次第で導入への課題が解消されるとなれば、いつの日か再び取り上げられる可能性がないとは言い切れません。しかし、それが今回話題として取り上げた理由ではありません。もともと取り上げてみたい話題であったというだけですが、本稿は論文「富裕税の創設とその終末」(梅田高樹)を参考にさせていただいております。