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第89話 変わりゆく街

2021年09月30日 バンコク便り

「おや、あの店も無くなっている」と驚くことがよくある。

つい昨日からは規制緩和により住居に併設されたフィットネス・ルームが再開したが、8月末まで長期間にわたり閉鎖されていた。膝十字靱帯の損傷により、もう10年以上前より走ることも叶わず運動と云えば最低の負荷をかけた蹴り上げ運動かエアロバイクに限られている。従ってジムが閉鎖されればもうただただ外を歩くしか無いということになる。それで自宅のあるシーロム・サトーンから、南へ向かえばバンコク旧市街であるチャルーンクルン(ニューロード)かチャオプラヤ川河畔まで、東へ向かえばフアランポン(バンコク中央駅、但し閉鎖中)、北方面はせいぜいプルンチット通りまで、何れも往復で8キロくらいの距離である。愚妻などはフアランポンを遥かに超え華人街ヤワラートまで行って買い物をしてくるのだから強者である。先週末などはヤワラートの露店で1個60バーツの血中酸素濃度測定器を10個も買い込み、社員や知人に配ろうと考えたらしいが、玩具も買えない様な価格の医療機器が使用できる筈も無く、これは貰った側も有難迷惑というもの。

さて、それまでは常に車で通り過ぎるだけの通りを歩いてみれば、大きく変化していることがある。もちろんその代表的なものは飲食店の閉鎖だ。先ずここ数年重宝していた中華レストラン、シーパヤ通りのチャイナパレス、旧式の洋館を改造した堂々たる老舗で、ホテルのレストラン並みの料理を手ごろな価格で提供していた。またこれは最近の事では無いのだろうが、チャルーンクルンにあったインド料理の大型オープン食堂もとうに無くなっている。これらは例えきっかけがコロナ禍であったとしても「老兵は去るのみ」で、やがてパンデミックが治まれば益々新しくお洒落な店の時代になってゆくのであろうが、街の風景で気になることもある。当然歩いていれば一定の距離ごとにバス停を通り過ぎる訳だが、バス亭も新しく整備され雨露を凌ぐには格好の施設になっており、場所によっては電源のコンセントまで備わっているためか、その多くに手荷物を抱え途方に暮れている様な、とてもバスを待つ風情では無い人たちがぽつねんと腰を掛けている姿を見るのだ。これだけ社会が疲弊し生活の糧を断たれた人が多くなれば、さもありなんと想像するのである。この国ではよく、都会の失業者も故郷の実家に帰れば作物が豊富で食うには困らない的な見方をされ、実際それがこの国の底力であって、災害に対する公的支援が全く手薄であっても騒乱に結び付きにくいのは確かなことだが、都市化が進んだ現在、地方に寄る辺の無い人たちが多数いることを忘れてはならないと思う。