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第81話 商務省

2021年03月31日 バンコク便り

我々の業務上、税務署以外で関りの多いのが商務省、その中でも法人登記局と外国人事業委員会ということになる。

前者は進出企業の法人登記申請から、その後も様々な変更や追加登記申請を受け付ける。バックグラウンドとなる法規は「タイ民商法典」である。後者は外国資本により設立される外国法人の業務範囲を規制する「外国人事業法」による取扱と規制の一部を免除する「外国人事業申請」を受け付け審査する機関である。

他省庁も含めてではあるが、一番ややこしい点は手続きが法文に従って実行されるのみに非ず、お役人様ご本人のその場の判断や、政府全体としてその時々の姿勢により常に揺れ動いていることにある。大まかに言えば、軍事政権成立したての頃は何でもかでも綱紀粛正で、本来汚職や不正を取り締まるのが目的であった筈であったが、行政の窓口が過剰反応し何もかも、公報されている条件を外れてまで審査が厳しくなった。その後進出企業の勢いも目立って衰え、しかもコロナ禍に見舞われている現在は、詳細の問い合わせをしても「基本的にそれで結構ですができればこうして欲しい」などと懇願口調になっている。どの口がそれを言うのかと言いたくもなるが、業務がし易くなったとそこは前向きに受け入れるべきだろう。

そうそう。プライベートも含め、いくら揉め事になろうが厳しい対立があろうが、物事の経緯はすべて省略され、何事も無かったようにある日突然全く違う態度で接して来るのも国民性と言って良いだろう。結果オーライ、つまりここでも徹底的に「マイペンライ」(脚注1)なのだ。そこで「おいおい、あの不愉快な言動は何だったのだ」などと問い詰めたり謝罪を求めるなどは愚の骨頂、とにかく終わり良ければ総て良しとすべきである。逆にこちらが礼儀を失した場合でも無かったことにできるのだから。

時の流れで状況が変貌するのはともかく、担当官一人一人の考えに左右され振り回されるというのはいただけない。

以前、親会社が大企業の現地法人設立登記を行った際に、出資社どうしの細々とした取決めを付属定款に登記する必要が生じた。この様なケースではいきなり申請書類を持ち込んでも、あれこれと修正要求をされることは承知の上で、先ずは原案を提出しアドバイスを求めた。申請地はバンコクの隣県である。定款上の取り決めは任意であっても、すべて民商法典に照らし適法な内容が求められる。当然その指示によって修正すべき内容を確認し、顧客の了承も得た上で申請を行ったが、その場に担当官の上司が現れ全く違った文章構成への修正と言うより作文し直しを要求された。こちらの担当は丸1日無駄骨を折った。顧客はこれからこの国に進出するところで、この様な現地事情を説明しても理解し様がない。

まあこの様な制度矛盾に右往左往させられながらも、お役人様の態度はあくまで事務的で不快ということは無い。ところが同一省庁でも「外国人事業委員会」は別格だ。本省職員ということで職位も違うのだろうが、こちらは外国法人に対し法で禁止されている業務を「商務大臣の許可を得た場合には一部の業務を認める」という制度であり、当方は認可をお願いする立場なのでまるで警察の取り調べを受けるが如く取り扱われる。担当官がお気に入りの申請資料になる様修正を繰り返さなければならない。しかもその認可に要する費用は申請法人の資本金額によっては大変な負担となる。一度などは最終の細かい修正指示を受け、お役人様の心広い取り計らいにより、そこにあった博物館ものの様な元祖手打ちスタイルのタイプライターで修正すれば、出直さなくとも良いと有難いお言葉を頂いたのだが、こちらの担当はそれを見て押し黙った。30代のスタッフはタイプライターなど見たことも無いのである。

この国の政府機関も、やがては時の流れによって近代化されるのであろうか。日常の手続はほぼオンライン化されシステムは進化しているが、国民対公務員の関係に変化が無ければ、本質的な変化は望めないだろう。

手続関連を受け付けるこの省庁名は商務省商業開発局、通称DBD(Department of Business Development)というのだが、“Department of Business Disturbance”(商業妨害局)などと言ってはいけません。

 

脚注1:タイで最もよく聞く言葉であり、外国人が初歩タイ語の勉強をすれば必ず最初の頃に出会う言葉でもあろう。マイは否定語、ペンは~である(英語のis)、ライは「何」の意であるアライが縮まったもの。したがって直訳は「なんでもない」なのだが、このことばは色々な意味で使われる。大丈夫、結構です、気にしない、どういたしまして、等々。