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第79話 人に関わる統計の困難さ

2021年01月31日 バンコク便り

人に関わる統計、例えば失業率を考えてみても、この国で国民全体の統計を取ること自体が難しいと思われる。今ではごく僅かな例かも知れないが、スラムで生まれ出生届けも出されずIDカードを持っていない、つまり人自体未登録というケースがある。それは極端だとしても、田舎の家にただ寄食するだけの人は普通にいるし、それを日本では家事手伝いなどと呼ぶのかも知れないが、家族愛というのか思いやりというのか、よく家族が放っておくものだと感心する。

都市住民の中にも短期就業、不定期就業で食い繋ぐ自由業あるいは自由人はそこら中にいるし、風俗産業では長期就業をしていても社員登録をする習慣がそもそも無い。街中で見かける、屋台・オープン食堂を含む飲食業や商店でも、法人が経営するチェーン店やショッピングセンターに入居する店で無ければ、少数は個人事業登録をしているだろうが、官公庁に登録することさえ知らない人が多い。個人所得申告を話題にしても「んー。聞いたことはある」という程度なので、税務署の個人所得税捕捉率はかなり低いものと想像ができ、やたらに外資や外国人からの徴税に躍起になるのも納得はいかないが状況は理解できぬでもない。但し現状では低所得者の免税範囲が所得月額26,000バーツ(約9万円)まで広げられている為、被雇用者に限って言えば登録や申告制度を徹底するための行政コストと税収は見合わない、という判断は成り立つだろう。但し無登録の個人事業者が大きな所得を得ているケースも相当あるだろうから、やはり補足するための施策を怠ってはならないと思う。

実情をよくご存じでない日本人が平均所得を話題にするが、この様な事情により全体を把握することは先ず不可能なので、4年制大学の新卒であれば大体この相場、その後は能力給で非常に幅が広くなるとでもお答えするしかないのである。

官公庁への登録全般について庶民が嫌っているということも前提としてあるだろう。先ず感情的側面として、公務員は横柄で偉そうで怖い、低学歴者に対してはさらに見下した態度で接するので、できれば関わりたくないというのが本音というところ。その態度に甘んじて従い、事業登録や税登録をしたところで、ケチを付けられあるいは税金を取られ、100%デメリットしかないと思うのも致し方ない。嫌でも関わらざるを得ないのは交通警官で、避けようとしても向こうからやって来て何か難癖をつける理由があれば賄賂目的で指摘してくる。では役所に従えば何か得をするかと言えば社会福祉はまだまだ整っているとは言い難い。結果として出来るだけ何の登録も手続きもせずに勝手にやるのが一番だ。

という訳で政府や官公庁と庶民の間の溝は大きく、政府としても強制しなければ従わない層の市民の行動を見越して厳しい対応をせざるを得ない。コロナ禍で緊急事態宣言をすれば皆大人しく従うと思う程愚かでは無いと、夜間外出禁止どころか酒類を全面的に販売禁止する。しかし庶民も庶民で、禁止を解いたその夜に道端でたむろし酒を飲んで高歌放吟しているのだからどうにも始末に負えない。

ならば我々外国人はどうかと云えば、滞在ビザや労働許可関連で完全に拘束されるので、たとえコンプライアンスなどに何も興味の無い個人事業者であっても従わざるを得ないのである。もちろん観光ビザだけでやり過ごし、登録関係は違法行為を承知の上ですべて名義を借りて行うという強者の商売人もいる。

国や自治体の方針に唯々諾々と従う、しかも市民自身が要請に従わない一部の市民をけん制するなどという彼の国に対して、全くの別世界と感じてしまう。