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第77話 変わり身の早さ、身軽さと不安定さ

2020年11月30日 バンコク便り

この国の人たち、特に庶民においては商売でもプライベートでも、実に器用で身軽に立ち回る。原因や規模はともかく口コミによりすいすいと身の振り方を変えられることには感心することが多い。特に屋台商売については、それがイベントであろうがたまたま空いた土地であろうが、人が集まる理由さえあれば屋台の群れが集まってくるのである。典型的なのは政治集会や公道を占拠する様なデモ隊周辺で、ほんの短時間のうちに集結する。集会やデモの参加者はそこに居座ること自体が目的なので人数も多ければ食事にも不自由するだろう。ところがそれを察知すると集まった人たちが不自由を感じる以前に食事や飲み物を提供する屋台が集まって来る。また都会の一角の建物が壊され更地になるとそこにも集まって来て、周辺のビジネスマンたちの食事を供する様になり、食事をする側も珍しい店があればと利用する様になる。

そういえば最近は都の規制で一部の地域では減って来たものの、バンコクの当たり前の風景として幹線道路の歩道上は屋台がびっしりと並んでおり、毎日行き来する人達も結構興味深く眺めながら歩いている。そこで売っている物はありふれたものだから、私としては通行するスペースを大きく損なう障害物にしか感じられないので、物見高い通行人にゆっくり歩かれると結構なストレスとなる。

流行する食べ物などの流行り廃りも早い。これは消費する側の飽きっぽさによるものだが、ある時これも口コミや最近ではSNS等の情報により「あれが美味しい」となると連日大盛況で一日中行列ができるが、1~2か月もすれば客足が離れることが非常に多い。ピーク時には「並び屋」と言って僅かな金銭で行列に並ぶ商売が成立したりもする。

若者の集まるスポットなども、大規模投資された大型パブやクラブに人が群がり、大盛況にはなるけれどもこれも1~2年で姿を消すことが多い。しかしそれでも十分回収はできるので、そもそも長期間運営することは計画していないらしい。

個人対個人の距離感という意味でも、毎日顔を合わせなければ気が済まない親友関係も何かのきっかけですっと離れてしまえばそれきりというケースが多い様に見える。これは国民性と言われている個人主義の表れと見ることができ、そもそも大親友となっても心の底の部分では彼ら特有の距離感があるのではないだろうか。

そもそも庶民の生活基盤が長期雇用を前提としていない場合が多いので、地方と都会を行ったり来たりしている者も結構いるものだし、その時々の転職により生活のサイクルもころころと変わる。あとは家庭の事情に翻弄され、本人が長期雇用を望んでいてもそれが叶わない場合もよくある。期待していた社員が仕方なく辞めて行った経験は数知れない。親友関係が不安定なのと対照的に家庭の事情は絶対に逃れられないという側面があるだろう。もちろん昨今では少しずつ変化をしているだろうが、とにかく両親には絶対服従と教育され子供らが育つ。

また押しなべて水商売と呼ばれるビジネスの被雇用者達は雇用関係さえ保証されていない、つまり未登録の人が圧倒的に多いことから収入が極端に不安定で、逆にこの生活形態に慣れてしまった人たちは彼ら自身が不規則な生活環境に流されてしまうという、何もそれはこの国に限ったことでは無いだろうが、その傾向が極端に表れているのは確かだろう。

ということは結果として、またこれらも保守的身分制度による差別的教育の世代を超えた悪循環と、言ってしまえば家族間の縛りがきついことによる弊害なのだろう。