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第163話 相続による自社株承継に潜むリスク

2018年10月15日 所長の眼

中小企業のオーナーが亡くなった場合の相続は、そのオーナーが所有していた自社株についてはその他の財産とともに遺言があればそれに従い、遺言がなければ相続人全員で分割協議を行ったうえで承継者を決めるのが一般的です。しかし万事スムーズに承継手続が完了するとは限りません。仮に故人が代表取締役であった場合には、取締役会で新しい代表者を選任することになるものの、元をたどればその取締役を選任するのは株主ですから、亡きオーナーが所有していた株式に応じた議決権は根本的には会社の経営権を左右するものです。ですから相続の行方はおおいに気になるところです。では、分割協議がなかなか纏まらない事態に陥った場合のその議決権に由来する経営権の承継についてはいったいどう考えるのでしょうか。

民法には「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」とあります。ですからオーナーが亡くなった時点で所有していた株式は相続人全員で共有することになります。ならば、その共有される株式の議決権の行使はどうなるのでしょう。会社法では「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。・・・」と定めています。そうすると、オーナーが所有していた株式を承継するための分割協議がそもそも整わないのであれば、「権利を行使する者を相続人うちのいずれか一人に決め、会社に通知する」ことは叶わないことになります。そのうえ、次のようなケースもあり得ます。
子3人が相続人の場合を例として具体的に説明しましょう。


≪A株式会社(発行済株式総数200株)の株主の状況≫
被相続人(故代表取締役) 120株(遺言なし)
長男(後継者)       80株
※他の相続人である次男、三男は株主ではない。


先に説明したように、分割協議が整わなければ被相続人である父が所有していた120株を子3人が共有するということになります。この株式にかかる権利を行使する者を長男として定めA社に通知すれば長男の意向に沿って会社を運営することができます。ところが長男の意向に反して次男と三男の二人(過半数)が合意し、そのどちらかを株主としての権利を行使する者と定めることも可能との解釈があります。そうなると議決権の比は長男2(80株)に対して次男及び三男は3(120株)となり、会社の経営権を次男と三男が握ることになります。経験上、会社オーナーの相続が発生してこのようなトラブルが起こるケースは多くはありませんが、しかしゼロでもありません。

数ある事業承継に関するトラブルのほんの一例をピックアップしてみたわけですが、生前から承継計画を立て着実に実行することや相続人全員に配慮した遺言を正しい手続きで残すことがいかに大切なことであるか、お考えいただく機会となれば幸いです。