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第160話 医療法人の持分 その2

2018年06月12日 所長の眼

医療法人は“非営利法人”ですから、配当の支払いは医療法で禁止されています。しかし、平成19年3月以前に設立された法人についてはモデル定款に従い出資者に対する持分の払戻し(実質的な配当)ができる定めになっています。そのため厚労省は“営利法人”たる株式会社と一線を画すべく定款変更により持分なし医療法人への移行を促しているわけですが、単なる定款変更とはいえ出資者の持分放棄という意思表示が大前提となることはもちろんのこと、税法特有の法人の贈与税負担の問題もあり必ずしも厚労省の思惑通りとはなっていないようです。

株式会社の株式に相当する医療法人の出資は、株式と同様に持分が存在するのであれば、その財産的価値の移転は相続税や贈与税と無縁ではありません。持分ありの医療法人に内部留保が蓄積されればされるほど出資の財産的価値は高まるものの、敢て持分放棄を選択し出資の財産的価値をゼロにすることができれば、次世代への医業承継の際の税負担から解放されます。それは持分放棄に対する抵抗感を和らげる一要因でもあります。

残る課題は出資者が持分放棄をした際に法人側に贈与税の負担が発生するという税の仕組みに対してどう対応するかということです。そこで登場したのが、「認定医療法人」という考え方です。医療法人が「認定」を受けたうえで更に一定の要件を守れば出資者が持分を放棄した場合でも負担すべき法人側の贈与税をゼロにするというもので、その制度は平成26年10月から始まっています。それは持分なし法人への移行期間を設け、その間に発生した相続・贈与に係る税金は猶予し、一定要件をクリアして免除になるという内容です。すでに3年を経過し、昨年の10月から新制度に引き継がれています。

持分なし法人へ移行し、世代交代の際の相続税や贈与税の負担から解放され、さらに「認定医療法人」としての要件をクリアすることで、持分放棄に伴う法人の贈与税負担も回避できるとなれば、「認定医療法人」選択を検討する余地はおおいにありそうです。

さて、肝心の「認定医療法人」の要件についてのポイントです。平成26年スタート時の旧制度と昨年10月からの新制度を比較すると、実は新制度になってずいぶんと要件が緩和されています。顕著なところで、旧制度では法人役員のうち同族の割合は3分の1以下としなければならず同族色を薄めることが要件とれていましたが、新制度ではその要件は撤廃されました。また、旧制度では最初の認定は厚労省の役割、その後に要件をクリアしているかどうの判定は税務署の役割でした。新制度では最初の認定から最後の要件の判定まで持分なし法人への移行を推進する立場にある厚労省が一貫して管理する仕組となったことも注目に値します。あくまでも移行推進をメインに据えてきた印象です。

最後に、医療法人の経営権について書き加えておきます。医療法人の最高意思決定機関は社員総会です。出資者は社員であることが前提となりますが、仮に出資者が持分放棄をしたとしても、その後にその法人所有の財産をどう処分するかなど、大切な意思決定に際しては相変わらず関わり続けることはできます。持分の有無によらず社員としての地位に変化はありません。この辺りの理解も持分放棄を検討するにあたり大切なところです。