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第154話 事業承継税制、要件緩和へ

2017年12月01日 所長の眼

前回のテーマ「自社株対策に有効か?事業承継税制」に引き続き、中小企業の自社株承継にまつわる優遇税制について取上げてみたいと思います。

11月24日付で公表された「生産性革命推進戦略」(自民党政務調査会)では「人づくり革命」と「生産性革命」を柱とした経済構造改革の方向性が示されました。なかでも興味をひかれるのは“事業承継税制の抜本改革と、承継前後のシームレスな支援”というテーマにある『中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上を図るため、納税猶予制度や雇用要件、対象株式の上限、対象者の制限といった事業承継税制の要件を抜本的に見直し、拡充するとともに、中小企業のM&A(親族外承継)を政策面から強力に支援する。経営者への気付きの提供や、承継後の経営支援などの承継前後のシームレスな支援を行う。』と記された部分です。今後「事業承継税制」適用要件の抜本的見直しと拡充に向けて具体的にどのような税制改正が行われるのか大変興味深いところです。

そしてこのタイミングで事業承継税制について「政府・与党は、全株式の3分の2が納税猶予の対象となる制度を「全株式」に引き上げ、5年間の8割の雇用維持に関する要件は条件付きで撤廃」との報道がありました。

まもなく翌年度の税制改正大綱が公表される時期でもあります。ですから近々、“抜本的見直しと拡充”の中身が具体的に示されることになると思います。そこで、いったいこの優遇税制のどの部分がクローズアップされているのか説明したいと思います。

前回の復習になりますが、事業承継税制には「贈与税の納税猶予」と「相続税の納税猶予」の2つの制度があります。先代が生前に後継者に自社株を贈与しても一定要件のもとで贈与税を一旦猶予(先送)しますが、その後先代が亡くなった際に猶予されていた贈与税を免除(ゼロ)に切り替えます。その後も相続税として引き継ぐようなイメージです。そして引き継がれた税金はどうなるかといいますと、やはりこれも自社株を保有し続ける限り猶予(先送)されるという流れになっています。詳細な要件は省いたあくまでも「大雑把」な話としてですが。

今回報道されたものの一つは、現行では相続の際にこの優遇が適用される株式は全株式の3分の2までで、加えてその税額の8割が猶予の対象となっているという部分が緩和される見通しだということです。具体的には「3分の2」を「全株」に引き上げることが検討されるようです。対象株式が増えれば自ずと猶予される税額が増えることになります。

注目の2つ目は、「雇用の維持」に関する要件です。様々な要件をクリアして納税が猶予されたとしても、そもそもこの制度は中小企業の事業を安定的に継続させるための優遇措置ですから、自社株を引継いだ後も企業経営を継続しているかどうかを見極めなければなりません。その見極めの一つとしてこの制度は雇用の維持が継続されているかどうかに着目しています。現行では形式的な判定基準として贈与や相続を受けた後5年間は平均して雇用の8割を下回ることはできないとしています。仮にその要件がクリアできなければ猶予されていた税額の全額に利子税を加えて納税しなければならないことになります。ご存じのように中小企業の経営環境は人手不足が深刻な状況となっていますので、必ずしも後継者の当初の思惑どおりに雇用維持できるとは限りません。5年の間に万が一8割を下回ったときの納税リスクを考えるとこの優遇税制の利用に二の足を踏んでしまうのも無理からぬことです。ですからこの辺りも別の条件に切り替わるようです。

「現在は年500件程度に留まる事業承継税制の適用件数を2千件以上に増やしたい考えだ。」(日経新聞2017/11/22)。このとおりになれば「経済構造改革」に資する優遇税制といえるのかもしれません。