TEL:0120-799-099 受付時間:8:50~17:00 お問い合わせはこちら

更新情報

第153話 自社株対策に有効か?事業承継税制

2017年11月10日 所長の眼

今更ですが、中小企業の事業承継問題が取り沙汰されてどれほどになるでしょうか。中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を公表したのは平成18年ですが、ずっとそれ以前から事業承継に関する様々な問題について研究・対応がなされてきていますので、正に“古くて新しい”テーマと言えます。最近では経営者の高齢化の顕在化もあってか、問題意識が更に高まっているようです。例えば、60歳以上の経営者の割合は1990年当時が約3割ほどであったものが、最近では5割を超えています。一方で、小規模事業者を除く中小企業の経営者の引退の平均年齢はおよそ67歳ほどで、60歳との差は僅か6年ということになります。ですから経営者の交代劇はこれからが本番といえます。

中小企業にとっての“事業承継”の成否は、そこで働く人達の雇用の問題でもあるわけで社会的な影響も少なくありませんが、それは第三者的な視点。同族経営が大半の中小企業にとっては自ら取り組まねばならない喫緊の課題です。経営者一族の財産承継の側面で捉えると、クローズアップされるのはオーナーが所有する自社株の承継にともなう相続税負担の問題と遺産分割に関するトラブルの問題です。他方、経営承継に関しては主に経営の①親族内承継、②親族外の社内人材への承継、③M&Aの3つの選択肢に集約されてきます。前置はさておき、今回の事業承継税制の話題は財産承継に係わるものです。

事業承継税制は、次の2つの特例があります。後継者に自社株を承継するには、売買による場合は別として、生前に贈与するか将来の相続で承継させるかのいずれかですが、その両方に特例が用意されています。

①贈与による方法の場合・・・現経営者が所有する自社株を後継者に対して生前に贈与した場合にその後継者が負担するはずの贈与税を猶予・免除するというもの。

②相続による方法の場合・・・現経営者が亡くなり相続する際に後継者が相続する株式について80%部分の相続税を猶予・免除するというもの

ここで、「猶予」というのは贈与税または相続税の納税の先送りで、「免除」というのは税金を納めなく済むということです。それぞれの制度をできるだけ平易に説明します。

<贈与税の納税猶予>

こちらは生前に自社株を後継者に贈与してしまうケースです。贈与した際の贈与税の全額は将来の相続発生の時まで納税が猶予されます。主な要件は後継者が20歳以上で役員就任後3年以上経過していること、そして贈与する現経営者の贈与時における代表退任が要件です。また、贈与の上限は後継者がすでに保有している株を含め議決権の(特別決議に必要な)3分の2までです。その後は5年間の事業継続と株式保有継続などの要件を満たす必要はあります。

この制度の出口はその後の相続発生時となります。猶予されていた贈与税はその時点で免除されてしまいます。そして既に譲り受けてしまっていた株式はあらためて相続財産とみなして相続税の負担に代わります。しかし、下の「相続税の納税猶予」特例へと繋ぐことはできます。

<相続税の納税猶予>

こちらの場合は先代経営者は会社の代表権を有していたことや過半の議決権を有していたことなどの要件、そして後継者については相続後一定期間内に代表権を有するなどの要件があります。

そして相続税の納税猶予は後継者の相続税額のうち議決権株式等の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。加えてその後の5年間の事業継続要件と株式保有継続などの要件を守っていく必要があります。

今回はあくまでも事業承継税制の概要です。紹介した以外にも、例えば、贈与・相続いずれの場合も、会社の要件、後継者の要件、先代経営者の要件などをクリアしていることについて経済産業大臣の認定を受ける必要があるなど多くの約束事があります。

税理士によるアドバイスを含め自社に有効であるかどうかを慎重に判断してください。当初使い勝手が悪かったせいかこの制度の利用者は少なかったのですが、何度かの改正を経て徐々に要件が緩和されており利用者は年々増加、有効との評価が増しています。