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第147話 海外子会社支援と寄附金課税

2017年05月31日 所長の眼

法人税に詳しくない方でも、一定の限度額を超えて会社が支出した寄附金については、損金算入できないことについてはご存じの方は多いでしょう。この制度の趣旨は無制限に損金算入を認めることは税収確保の観点から好ましくないのと安易な利益操作を防止するところにあるようです。なお、国や地方公共団体などに寄附する場合には損金算入の制限はありません。

さて、親子会社間で行われる経済的な援助についても寄附金課税の適用を受けることがありますので注意を要します。例えば、子会社の運転資金を助けるために低利や無利息で貸付を行うケースなどは特別な場合を除いて利息免除の経済的な利益供与があったとみなされ、寄附金課税の適用があります。ここからが今回の本題なのですが、子会社などが海外にあった場合はどうでしょうか?実は国外関連者に対する寄附金は「全額」が損金不算入となりますのでご注意願います。

よくあることですが中小企業が海外に進出する場合には、当初から現地に社員を潤沢に送り込むことは人材やコスト面からなかなか難しいのが現状です。例えば、製造業であれば最初に現地に送り込んだ人材がモノづくりは有能でも財務管理は全くの素人などといったケースはよくあることです。必然的に、海外子会社が軌道に乗るまでは本社からのサポートは欠かせないものとなります。資金が不足すれば利息はさておき取り敢えず送金で対応することもあるでしょう。親会社としても海外子会社を軌道に乗せるべく支援を惜しむことはありません。この場合、一定の支援に対してそのサービスに見合う対価を子会社から受けていれば寄附金課税の問題はない訳ですが、その対価を「幾ら」に設定するかは考え処です。例えば、親会社ではない第三者から同じサービスの提供を受けるとしたらいったい「幾ら」払うだろうかということは一つの基準になるでしょう。

ここで、「寄附金課税」から離れ、「移転価格税制」の話題に移ります。少々難解ですがわかり易く説明します。例えば、国境を越えて親子会社間で商品取引を行う場合に日本本社が海外子会社から本来受けるべき売上金額よりも過少な金額で取引していたり、あるいは日本本社が海外子会社に本来払うべき仕入金額よりも過大な金額で取引していた場合には、本社の利益は圧縮され、結果的に日本国の税収が減少します。これは海外子会社が所在する相手国の立場で考えると全く逆のことが言えます。このように両国間の利害が絡むので親子会社間の国際的な取引は適正な金額(このことを「独立企業間価格」といいます。)で行うべきというのが「移転価格税制」の趣旨です。

数字で具体的に説明しましょう。日本の税務署から、本来100円で売るべきものを60円で海外子会社に売っていると指摘されたとします。指摘に従い差額40円の売上を追加計上するなら、海外子会社での仕入れが40円増額されないと片手落ちです。しかし、現実には海外子会社で60円で仕入れたものを40円増額して100円で仕入れたことにして、相手国から税金を還付してもらうなどということはまずできません。なぜなら相手国にしてみれば日本の都合で自国の税収が減るなどということは到底受け入れられるものではないからです。最悪の場合には両国から課税されるという二重課税の問題が生じてしまいます。これはサービスの提供でも同じこと。ですから「独立企業間価格」に対する理解と検討を加える作業をないがしろにすることはできません。

話を戻しましよう。先ほどの40円は単なる子会社に対する利益供与と考えれば、貸方に40円の売上を追加計上し借方の費用40円は寄附金課税で全額損金不算入となります。そうではなく、独立企業間価格の認識の違いと考えれば「移転価格税制」を踏まえたうえでの対応ということになります。

いずれにしても、考え方としてどちらのスタンスで税務調査に臨むのか。備えを怠り後手に回るのだけは避けたいものです。