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第143話 税源浸食と利益移転、BEPS

2016年12月19日 所長の眼

規模の大小を問わず最近は海外に子会社を設立しグローバルに活躍する企業が増えています。このように企業の経済活動が海外に及ぶようになるとそれぞれの国の税制に従ってそれぞれの国に対して税金を納めることになります。この場合、法人税の税率一つとってみても各国異なるわけで、必然的に企業サイドとしては税負担の最小化を目論みグループ全体の利益を関係国にいかにコントロールして配分するかが知恵の絞りどころになるわけです。様々なスキームにより法律には触れないけれども国と国を股にかけこのような租税回避行為を公然と行う多国籍企業の存在は、税収確保の観点からは各国政府の共通の悩みの種となります。こうした国際的な租税回避の問題を指して「税源浸食と利益移転」(BEPS)と称します。更にBEPSはそれを利用できずに本来の税金を納めるしかない中小企業等にとっては結果的にハンデを抱えることになるため不公平感の源でもあります。当然、対応策として国際課税ルール見直しの動きがでてきます。これが「BEPSプロジェクト」と呼ばれているものです。新聞などでも関連記事を目にするようになってきました。OECDのホームページではBEPSによる税収の損失は年間1,000~2,400億米ドル、世界全体の法人税収の4~10%にまで達すると説明されています。

この「BEPSプロジェクト」は昨年のG20財務大臣会合で最終報告がなされ、今後はこの合意に基づいて日本を含むG20各国が協調して国内法の整備に着手し主導的役割を担うことになります。世界のGDPの8割近くを占める国々が結集し国際課税ルールの見直しのために歩調を合わせるのですからその方向性を知らずして国際課税にかかる国内法を云々することはできませんし、実際、BEPSプロジェクトに添った国内法の改正も行われています。

なかでも注目の一つは「移転価格税制に係る文書化制度」が整備されたことでしょう。内容的には多国籍企業グループに対して世界共通様式の文書を税務当局に提出させようとするもので、ローカルファイル、マスターファイル及び国別報告書の3種類が規定されています。「多国籍企業グループ」と聞いただけで「他人事、われ関せず」と決め込みがちですが、ここで注目していただきたいのは「ローカルファイル」です。

具体的には、海外の子会社との有形資産取引額が50億円(無形資産取引で3億円)以上ある企業は、毎期、確定申告期限までに「ローカルファイル」の作成や保存が義務付けられます。これを「同時文書化義務」といいます。その基準金額に満たない企業は同時文書化義務は免除されますが、しかし少額の取引規模であっても税務調査などで税務当局から求められれば60日以内に「ローカルファイル」を提出しなければならない義務は負っています。結局のところ海外子会社と取引がある企業はその取引金額の大小にかかわらず「ローカルファイル」の作成からは逃れることができない仕組みになっています。更に「ローカルファイル」を提出しないときはどうなるか。事と次第ではその先に税務署による推定課税という落とし穴が待ち受けています。

「ローカルファイル」?「推定課税」?以下概略です。

例えば、日本で製造された原価1000円の自社製品を海外の販売子会社に輸出しその子会社が現地で2000円で販売する場合を想定してみましょう。仮に日本の法人税率が40%、子会社のある現地国の税率が20%である場合に、通常1500円で輸出するところ意図して安い価格(例:1200円)で子会社に輸出し税率の低い現地国に利益を多めに配分したとします。正にBEPSです。税務調査で取引価格是正の指摘を受けることになります。ですから、企業グループ内では予め適正な価格(これを独立企業間価格といいます)を定め取引すべきなのですが、取引金額が適正であることを証明するのは自分、そのための文書は自ら準備しなければなりません。この文書が「ローカルファイル」なのです。この文書の提出が遅れたり、提出しないなどということになれば税務署から適正な価格を推定され、是正に基づき不足の税金を納めることになります。ですからまずは適正な価格を大前提としつつ、「ローカルファイル」も準備すべきなのです。備えあれば憂いなしです。

この制度は平成29年4月1日以後開始する事業年度分の法人税から適用があります。