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第13話 タイ華僑のビジネス

2015年04月10日 バンコク便り

これもまた古い話になるが、私が事務所を立ち上げたばかりの18年前、懇意のクライアントさんの取引先であったサミット・オート・パーツという当地の中堅財閥グループが経営する、自動車部品工場へ同行させていただいたことがあった。独立当初、我が事務所はこのクライアントさんの事務所の一角に居候するという形で創業し、またお邪魔したこの工場もバンナー・トラート通りというバンコク郊外の、近隣であった。当時は部外者が同行してもとやかく言われる時代ではなかった。

このクライアントさんは機械設備の設計・販売を生業としており、この日も新規設備(専用機ライン)の売り込みに伺った訳であった。同行者でありながら8棟の建屋から成る大きな工場をご案内いただいた。覚えているのはバイク・フレームの生産ラインと、敷地最奥にあったプレス金型の製作風景であった。

まず事務所でご挨拶させていただいたのは当時の総支配人、といってもこの財閥総帥の側近中の側近の方であった。オートパーツと云えば当時も今も日系メーカーのサプライヤーが殆どであり、この企業もほぼ100%日系向け工場で、この方も当然の様に日本留学組の完璧な日本語スピーカーなのだった。今現在では事情が変わっているのかも知れないが、自動車、家電などの大手日系メーカー代表は、当時この方の様な日本留学組が務め、大企業の牽引役の任にあたるというスタイルが多く見られた。

その後も工場見学に回りながら、それぞれの責任者の方をご紹介いただいたのだが、部門のトップは皆日系メーカー出身者、それも幹部であった方々なのである。バイク部品のトップはついこの間までホンダのバイク工場社長、金型部門のトップはマツダ出身者だ。

つまりこの企業が元々持っているのは資産であって、技術は日本人から受け継いでいるのである。大資本を以て技術の受け皿を提供し、日本で高等教育を受けた現地の方(もちろん中国系タイ人)が組織作りを行い、技術を植え付けるのは当地駐在で実績のある日本人、という構図である。

まさにこれがタイ式企業展開であり、このサミット・グループは現在、車両ボディー、シャーシ、ワイヤーハーネス、内装、機械設備(他にゴルフ場も所有する)等々、自社展開と日系との合弁事業でタイ自動車産業の重鎮として発展を遂げている。

この構図を国家単位でも実現しているのがこのタイという国である。現在では「東洋のデトロイト」(この呼称は常に東洋が西洋に劣っているという前提に立つという理由で好ましくない)と呼ばれ、年間の自動車生産も200万台を超えるまでの基幹産業となった。投資委員会を通し外国資本を誘致し、自らは土地、インフラ、労働力を提供する。この国にメリットのある企業には手厚い待遇をし、時間をかけて自国の技術革新を確立する。これがまさに東南アジア式発展のまさに成功例だろう。

発展過程において、成果の何もかもを自国のものにしたいという様な東アジアの国々とは大きく違う点で、更なる外資誘致の可能性を結果的に高めている、とも言えるのではないだろうか。