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第52話 親タクシン派は終焉に向かうのか?

2018年09月30日 バンコク便り

来年2月に行われると云われているタイ総選挙に向け、政局の争いが表面化している。元よりこの国に革新派政党は存在しないので、言ってみれば保守系政党内派閥の勢力争いの様でもあり、さらに日本の様な地縁血縁親分子分といった縛りも無く、実質は現金と利権の奪い合いをベースとする離合集散に近い。

財力により政界内での大勢力を維持してきた親タクシン派は大ボスのタクシン・シナワットが2006年に刑事犯罪者となり国外逃亡してからも彼が私財を投じ後継者たちを率いる形でタイ・東北地方の農民票をベースに政界を牛耳ってきた。また後継者代表としてこの勢力に担がれ、もちろん兄の命によって2011年より首相を勤めタクシン・パペット政権を運営してきた実妹インラック・シナワットも集票目的の理不尽なばらまき政策により国家財政に莫大な損失をもたらしたとして刑事起訴され2017年に海外逃亡した。逃亡の際は警察上層部が手引し陸路でカンボジアへ出国させたとして一時報道されたものの警察幹部を裁く実質的なシステムは存在しない。

来年の総選挙に向けての政局報道が喧しいが、記事の殆どがプラユット現首相派による親タクシン派(プアタイ党、PT、タイのためにの意)議員への勧誘工作についてだ。陸軍高官がPTの地盤である東北地方に於いてPT元議員に対し、実弾を使用し新政党パラン・プラチャラート(大衆国家の力の意、現軍事政権首相の続投を目的として立ち上げたと見做されている)への入党を求めている、との報道に対しプラウィット副首相が全面的に否定した。それらの元議員とは旧知の仲であるというだけでそれ以上の意味は何も無いと、また政府要人が旧タイラックタイ党(旧親タクシン派政党)のベテラン政治家グループを使ってPT元議員らを猛烈に引き抜こうとしている、そのため当政治家グループがバンコクの近衛師団にある同氏の私邸を訪問したとの噂も合わせ全面否定した。

またすでにパラン・プラチャラート党に参入したと伝えられる東北部ウボンラチャタニ県のPT元議員グループ(スポン・フォンガーム元副内相を中心とする)が、23~24日にかけて移動閣議の為この地を訪問する現首相を歓迎するという意向も明らかにされている。

さらに現政権は議員の勧誘だけでなく、選挙管理委員会のメンバーをリセットするという荒業を行使し、国家評議会(NLA、現政権の傘下にある執行機関)が新選管候補7名の内2名の承認を拒否した。そもそも現政権の肝入りで長期間を費やし制定した新憲法に規定に於いて定めた「高度な資格」をこの2名は有していないというのが拒否の根拠とされている。

この様な事態に至り、領袖タクシンからのコメントも報道されなくなってきた。長きに亘り執拗にこの国の政治行政を揺るがし続けた彼も、そろそろ引き際を認識し始めたということなのか。

政権維持のためならなりふり構わぬふるまいをするということがこの国でも行われ、さらに結果的に国民が容認してしまうという近未来がすでに見えている。

政治意志のため私利私欲から一線を画した共通のプラットフォーム、つまりそれを公共心と言っても良いのだが、この至って当たり前の意識を持つ政治家あるいは政治家グループは、少なくとも私の居住地であるこの国、また一方我が祖国に於いても最早存在しないのだろう。「劣化」という二文字が思い浮かぶのみ。