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第136話 魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)の跋扈(ばっこ)する伏魔殿~TaxHaven~

2016年06月03日 所長の眼

ご存じのいわゆる“パナマ文書”、これに絡むスキャンダラスな報道しかり最近では陰謀説が流れるなどどこまで波紋が広がるのか、不謹慎と思いながらも好奇心があおられるところではあります。その辺りはさておき、よく耳にする“タックス・ヘイブン”についてはどこまでイメージすることができますか?手始めにタックス・ヘイブンの“ヘイブン”は“Haven”(ヘイブン)で“避難地”という意味になり、“天国”の“Heaven”(ヘヴン)ではありませんから“税金天国”ではなく“租税回避地”と訳します。

今回のパナマではありませんが、タックス・ヘイブンとして有名なケイマン諸島(カリブ海の英国領土)について、ここでクイズをひとつ。

Q.総面積約260k㎡(新潟市の約3分の1)のケイマン諸島への日本からの直接投資残高(平成25年末)はおおよそ次の①~③のどれでしょうか?

① 510億円   ② 5100億円   ③ 5兆1000億円

A.正解は③の5兆1000億円(日銀の公表データ)です。

ちなみに日系企業が多く進出しているお馴染みの国のタイに対する直接投資残高は同年末で約4兆7000億円、新潟県のH28年度予算規模は約1兆3000億円です。その金額からしてタックス・ヘイブンは大企業や富裕層のための経済活動の地としてあたりまえのように定着しているといってもいいでしょう。このようにケイマン諸島一つとってみても日本一国だけでも尋常ではない金額が流れ込んでいますし、こうした国や地域は数多く存在し世界中で利用されていることを考えると集積されたマネーは天文学的な数字となり計り知れない影響力を持っているであろうことは容易に想像できます。

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どこでもよいのですが、ある国の大企業や個人の富裕層が財産を租税回避地へ移転・運用し税負担なく蓄財する流れを説明したものが上図です。しかし肝心の右半分の実態はよくわかっていません。というのもこうしたタックス・ヘイブンと称される地域は緩やかな税制と秘密保持の法制度がセットになっており情報が外に漏れにくい仕組みになっているからです。国境を越えてその地域に一旦流れ込んだマネーは補足することが難しい。ですから“パナマ文書”は本来であれば漏れないはずのレア情報といえます。

グローバル企業やリッチな人々のみならず、非合法なものも含め世界中からマネーが流れ込みその資金が運用されている推し量ることのできない世界を喩え、「タックス・ヘイブン」とは正に『魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)の跋扈(ばっこ)する伏魔殿』、ズバリこのように例えたのは元大蔵省主税局国際租税課長で弁護士の故志賀櫻氏(1949-2015)です。志賀氏については『正確な知識と豊富な実体験をもってタックス・ヘイブンの実像を語れる人間は、世界中探しても、あなたの他に誰もいない。』と言わしめるほどのエキスパートでした。著書「タックス・ヘイブン-逃げてい行く税金」(岩波新書)の初版は2013年3月でしたが今年の5月で9版となります。この分野についてこの本を超える内容のものは当分出ないだろうと思わせるほどに充実し説得力があり、理屈ばかりを難しく語ることもなく、かといって読者に媚びた表現を使うでもない、市民に真実を知らせようとする姿勢がひしひしと伝わってきます。また、表と裏の顔を使い分ける国々の存在や世界の金融市場の実態をかいま見ることもできます。おそらくこれからも読み継がれていくことでしょう。昨年暮れに66歳という年齢で急逝されたとのことですが残念です。ご冥福をお祈りします。

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