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第35話 ミス・サイゴン

2017年03月09日 バンコク便り

このブログで映画評を書くとは私自身思ってもみなかったが、素晴らしい作品と感じたので、ブログの趣旨とそぐわないのを承知でご紹介させていただく。

まずはタイの映画業界についてだが、タイの若者にとっての重要な娯楽の一つであり、食事と映画というのが多くのカップルが選ぶデートコースとなっている、入場料が安い(メインは500~600円、3D/4D等特殊なスクリーンで1,000~1,200円程度)こともあり概ね盛況である。現在映画館チェーンのトップであるメジャー・シネプレックスは自社開発のビル(多くのレストラン、ボーリング場、カラオケルーム、ファッションその他若者向けの小売店が併設)および大型ショッピング・センターに入居するかたちで、バンコク首都圏に30の拠点、それぞれにスクリーンが10~15幕稼働しているのだから、その市場規模には目を見張るものがある。このスケール・メリットが生かされ、ハリウッド他の新着映画は、米国とほぼ同時封切りだ。従って我々が日本の予告CFを見て作品に興味を抱いても、タイでの上映は2~3か月前に終わっている。洋画はタイ語吹き替えおよび英語オリジナル+タイ語字幕から選択できる。

さて、この作品「ミス・サイゴン」はご存知の通り英国ウェストエンドで25年前に生まれた超スタンダードなミュージカルである。以来ブロードウェイや日本でも現在まで繰り返し演じられ、ミュージカル作品に与えられる代表的な賞、ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞においても複数回賞を受けている

先日、当地は連休でもあり、暇に任せて上記映画館のWEBサイトを見ていてこの題名が目に留まった。有名なミュージカルであるとは認識していたが、映画化された話は全く知らなかった。さらに検索すると、映画化されたこの作品は、現在東京の1館だけでプレビュー上映されているという。それでも私は、脚本から練り直した映画作品なのだろうと想像していたのだが、いざ見てみるとそれは舞台そのものを映画用に撮影した、いわばミュージカル・ライブ映像なのでる。昔のハリウッドで一時期ミュージカル映画というものが流行り、有名なものは私も鑑賞しているが、あれらはミュージカル形式のハリウッド映画というもので、舞台そのものを全編撮影した映画などはかつて無いのではないだろうか。前編、休憩5分後に後編、さらに10分休憩後に、25年前の主役俳優3名を交えたフィナーレまで、3時間以上に亘る長編となっている。当然だがまるで劇場でミュージカルを鑑賞している様だ。機会があれば本物の舞台を是非見たいものだ。

ストーリーは至ってシンプルで、米国の軍属としてベトナムへ駐留していた若者クリスと、戦火で焼け出され、17歳で止む無く米軍兵向けの売春クラブのダンサーとなったばかりのキムが出会い恋に落ちる。クリスは共に暮らそうと語る。その後キムの両親が決めていた婚約者トゥイがキムを迎えに来るが、キムは両親亡き後この婚約は無効だと言って従わず、しかもトゥイは米国と敵対するベトナム人民軍に所属しているため激高し、クリスとトゥイは銃を向け合うが結局トゥイは二人に罵声を浴びせ出てゆく。クリスはキムを米国に連れてゆくと約束をするが、ほど無い1975年4月30日、サイゴン陥落の日を迎え、クリスとキムは引き放されてしまう。ここは数々のルポルタージュや記事で報道された、米国大使館から最後のヘリが飛び立ち、門前に多くのベトナム人が押し掛け出国を望み泣き叫ぶというシーンである。

3年後、いつかクリスが迎えに来ると信じているキムが、バンコクでクリスと再会するのだが、クリスはエレンという米国人の妻を帯同しており、一方キムはクリスとの間に授かった息子タムを育てていた。

そしてクリス夫妻が話し合いの末タムを米国で育てると決心し、キムはその実現の障害になるであろう自らの命を絶つ。クリスは亡骸を、最初に出会った夜の様にかき抱き、クリスの絶叫で幕は下りる。

この様にストレートで単純な悲恋ストーリーだが、名作とは常にそういうものだと思う。キム役の女優、イーヴァ・ノブルゼイダの澄んでいてしかも力強い歌声が、今も耳に残っている。