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第30話 緩やかな階級社会

2016年10月18日 バンコク便り

私が新規進出企業の方へのアドバイスでもよく口にし、おそらくこのコラムでも何遍も触れている話題である、タイの階級社会について述べたい。

タイへいらしたことのある方の殆どは、「敬虔な仏教徒であって微笑みを絶やさない、穏やかな人たち」という印象をお持ちだろう。これは私も実感していることであって、随分と長居することになった大きな理由であろうと思う。

好印象に水を差すような話題で恐縮ではあるが、この社会の本質的な部分においては、東南アジアの国々の中でも中世からの階級社会が最も色濃く残っている弱肉強食の世界、という一面がある。

歴史を紐解けば、近頃はほぼ話題にも上らなくなった日本の被差別部落も、インドを発祥とした身分制度の影響であると言われている。タイ社会の基層をなすものも仏教とともに直接受け入れたインド文化そのものである。もちろん言語にしてもサンスクリットを源としている。

そもそも階級制度とは職能集団という側面があり、所謂ホワイトカラーで知識層に当たる人たちは、特に公共の場では絶対に掃除はしない。我々の様に教育の一環として生徒が学校の清掃をするなどということは考えられない。もちろん職場でも同様である。その様な仕事は、ビル管理会社から派遣されるか、あるいは個人的に請け負った清掃員が行う。しかし表面的に上の物が下の者を蔑む態度はあまりなく、あくまで暗黙の了解ということになっている。もし進出したての日系企業の役員が日本式の社員教育ということでトイレや社内の清掃を強制すれば、全員が即刻辞職するであろうし、まず自分が率先して掃除をすれば、「ああこの方はその様な階層の出身なのだろう」と解釈される。

実例として、清掃ではないが経理事務要員として雇用した社員に事務用品のお使いを頼んだら、翌日から出社しなかったという経験をした中小企業の社長さんもおられる。

では初対面のタイ人どうしが、相手の階級をどうやって見分けるのか、これは服装、髪型という風采と言葉遣いである。確かに長いことこの社会で暮らしていれば、タイ語の言葉の選び方、発音やイントネーションは教育レベルに準じかなりの違いがある、ということが分かってくる。そして皆、緩やかながら自らの態度を判断して決める。ハイソな方たちは、親子の会話も完全な敬語使いである。私自身も、外へ出ればできるだけ言葉を選んで会話をしてはいるのだが、さすがにこの家族内での敬語会話には馴染めない。タイ語会話の教科書には、子供が学校へ行く時にも、両親に手を合わせて挨拶するというストーリーがある。私は息子にこの様な教育をしてこなかった。

例えば実験としてデパートの同じ売り場へ、きちんとした服装と、ぞんざいな服装とで行き、店員さんに話しかけてみよう。我々はアウト・カーストであるから、まさに服装によって身分を判断される。同じ店員さんに全く違う態度を示されること請け合いである。

政治行政の現場では、政治騒乱を首謀し「この国を焼き払え!」と従う大衆に訴え、その結果大ショッピングセンターを含めたビルがいくつも放火の被害に遭い、その首謀者は騒乱鎮圧後一旦は軍の施設に拘束され取調べを受けた。しかしその後、刑に服する訳でもなく次期選挙を経て何と商務省副大臣に就任した。これに類似したことは日常茶飯で、貴族と言われる人たちにとっては立憲主義も法治国家も敵味方も関係なく何でもありの世界なのである。弱肉強食の典型例ではないか。