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第140話 ○、×、△?

2016年09月23日 所長の眼

ふざけたタイトルだとお叱りを頂戴しそうですね。しかし中身はいたって真面目な話です。さる8月23日の日本経済新聞の一面に「租税回避策に開示義務」~財務省など、税理士に 拒めば罰則検討~ という記事が掲載されました。ご記憶されている方も多いと思います。記事の概要は、「2018年度から一定の基準を満たす租税回避策を提供し報酬を受ける会計事務所やコンサルティング会社などに対してその回避策を開示させる仕組みを財務省と国税庁が導入する方針」というものでした。

以前に“タックス・ヘイブン”というテーマで租税回避地にまつわる話をさせていただいたことがありますが、例のパナマ文書の流出により“租税回避”行為に対しては一般的な関心も高まっています。加えて海外に目を向けるとOECD加盟国の中で租税回避行為を否認する法的手段を持たない国は既に日本だけとなっている状況です。ですから今回の記事はタイミングとしてうなずけるところではあります。

さて、“租税回避”とはそもそも何なのでしょうか。“脱税”といえば、誰もが違法性があり「×」という認識がある一方、“節税”といえば法律を守りながらもできるだけ税負担を軽くするもので「○」とお考えになるでしょう。それでは“租税回避”はどうでしょうか。「○」でもない、かといって「×」でもなさそうです。例を挙げて説明しましょう。

まず、“脱税”の具体例です。企業が売上を隠したとしたら、これは正に“脱税”行為です。ありもしない経費を計上する行為も同様です。これを堅苦しく解説すると課税の要件を満たしているにもかかわらずその事実を隠ぺいする行為ということになります。

次に、“節税”の具体例です。売上や経費はありのままですが、特例の特別償却などで利益を抑えたり、税額控除などで税額を最小限に抑える行為です。この場合も最少の税額を求めつつも課税の要件を満たしているものについては正しい税金計算が行われます。

さて、“租税回避”はどうでしょうか。実話ですが、海外に住んでいる非居住者が贈与を受けても贈与税が課税されないという税法の規定を利用して多額の贈与税を免れた有名な事件がありました。「武富士事件」といいます。香港に居住していた長男に国外に所在する財産を贈与したもので、課税庁サイドは長男の海外居住の客観性を認めないと主張しましたが、最終的に最高裁は海外滞在日数や業務に従事したことなどの海外生活の実態があるとして納税者勝訴としました。裁判官曰く「明確な根拠が認められないのに、安易に拡大解釈、類推解釈、権利濫用法理の適用などの特別の法解釈や特別の事実認定を行って、租税回避の否認をして課税することは許されない」、要は仮に租税回避行為だとしても課税の要件を満たしていないのだから課税することはできないという判断でした。

上述のとおり脱税や節税は課税の要件を満たすという共通点がありますが、そもそも課税の要件を潜り抜けるのが租税回避ということになります。そして限りなく黒っぽい(×)、しかし課税要件は満たしていないので白っぽい(○)、なのでグレー(△)。

しかし、どこからどこまでを租税回避と捉えるのか、大変難しい判断です。そんなわけで先日の記事に関わる今後の動向には大いに注目してみたいと思います。